肖像レリーフや銅像胸像を制作するにあたって
肖像レリーフの製作依頼があった際には、まず初めに確認しなければならない大切なポイントがあります。それは対象となる人物がご存命か、あるいはすでに亡くなられているのかということです。
この最初の確認ひとつで、その後の準備行程や制作の進め方は大きく変わってきます。とくに肖像を扱う仕事は、ご本人やご遺族、依頼者の思いが深く関わるため、非常に慎重な姿勢が求められます。
たとえば、夏前にお受けしたある肖像レリーフの案件では、対象者の方はすでに他界されていました。
こうした場合、残されている資料や写真が制作のすべての手掛かりとなります。
もし有名人で、象徴的な肖像写真や公式ポートレートが数多く存在していれば問題はありません。しかし、必ずしもそうとは限らず、公的な写真がないケースも多々あります。
その場合には、どの年代の顔を基準にするのか、若い頃なのか晩年なのか、あるいはプライベートでの柔和な表情にするのか、公務の場での厳格な表情にするのか、といった選択を依頼者とともに丁寧に相談しながら決めていきます。
まさに「どの肖像を後世に残すのか」という重大な判断であり、この段階で方向性が定まらなければ、銅像やブロンズ像として形にしたときに違和感が生じかねません。
また、肖像レリーフに用いる基準写真を決定することは、実務上も心理的にも大変重要です。
依頼者にとって心から納得できる一枚を選び抜く必要があり、その過程はときにご遺族の思い出を呼び起こす繊細な時間にもなります。
そうして決定された写真をもとに、いよいよ彫刻家や原型師が制作に取りかかります。
原型師とは、いわば作品の裏方であり、完成品に名前が出ることはありません。
しかし、その存在なくして肖像レリーフや胸像、銅像、ブロンズ像が形になることはありません。
まず「塑像」と呼ばれる工程で、粘土を盛り上げたり削り落としたりして形を整え、対象者の面影を少しずつ立体の中に浮かび上がらせます。
ここからが本当の制作開始であり、粘土の一片一片に命を吹き込むような作業が続きます。
過去には、同じ原型から異なる技法で二種類の作品を制作した珍しいケースもありました。
たとえば昨年は、ひとつの肖像レリーフを、ブロンズ鋳物製と電気鋳造製の二枚で仕上げることになりました。どちらの技法も特徴が異なり、仕上がりの質感や重量感にも違いが出ますが、どちらも対象者の肖像を正確に、かつ力強く表現するために最適な方法でした。
原型は共通のものを使うため、繊細さと大胆さを兼ね備えた制作が不可欠であり、同時に彫刻家の高い技量と経験が試されます。
こうして完成した肖像レリーフや銅像、ブロンズ像は、単なる造形物ではなく、その人の人生や功績を後世に伝える象徴となります。
見る人に感動や尊敬の念を与え、公共の場に設置されれば、多くの人々がその前に立ち止まり、思いを馳せる存在となるのです。
肖像を形にするということは、時間を超えてその人物を生かし続けることであり、まさに記念碑的な意義を持つ仕事だと感じています。